2026/08/27 10:31
僕には、専用機がある。
妻のものではない。
僕のものだ。
好きなときに使える。
誰にも、
「今使ってるから」
と言われない。
これは、とても大切なことである。
……と思っていた。
ところが先日。
僕の専用機が、
なぜか家族の前に置かれていた。
「これ、どうする?」
妻が言った。
「……どうするって?」
僕は嫌な予感がした。
すると妻が言う。
「最近、あなた、こればっかりじゃない?」
「ばっかりって……」
僕は思わず反論した。
「毎日使ってるわけじゃないよ」
「昨日も使ってたじゃない」
「昨日は……」
「一昨日も」
「…………」
僕は黙った。
確かに。
使っている。
でも、それには理由がある。
気に入っているからだ。
それだけだ。
僕が説明しようとすると、
「まあ、いいんだけどね」
妻が言った。
「ただ、最近あなたのものが増えたなと思って」
……。
なるほど。
話はそっちか。
僕専用のもの。
僕のためのもの。
僕が使うもの。
確かに、以前より増えている。
僕はちょっと考えた。
そして、ふと思った。
――僕、こんなに「自分のためのもの」を持っていたっけ?
昔の僕は、
「自分のために何かを買う」
ということに、あまり興味がなかった。
必要なものがあれば買う。
壊れたら買い替える。
それくらいだった。
でも最近は違う。
ちょっと気になる。
試してみる。
気に入る。
そして、
「これ、いいな」
と思う。
そんなことが増えた。
妻が僕を見る。
「最初は、私のを勝手に使ってたのにね」
「勝手にじゃないよ」
「じゃあ、何?」
「……借りてた」
「無断で?」
「…………」
何も言えない。
そうだった。
最初のころ。
僕は妻が使っているテラヘルツブロワーを見ていた。
何をしているのか、よく分からなかった。
正直、
「そんなもの使って、何になるんだろう」
くらいに思っていた。
それが。
妻がいない隙に、
ちょっと使ってみた。
そして、
「……あれ?」
となった。
もう一回。
そして、また一回。
気づけば、
僕のほうが夢中になっていた。
妻にバレたときは、
かなり気まずかった。
でも妻は笑った。
「そんなに気に入ったなら、使えばいいじゃない」
それからだった。
僕の生活が、少しずつ変わっていったのは。
そしてついには、
僕専用の一台までやって来た。
「あなた、嬉しかったでしょう?」
妻が言った。
「……うん」
僕は素直に答えた。
すると妻が笑う。
「顔に出てたもの」
「そんなに?」
「すごく」
……。
恥ずかしい。
でも。
なんだか、悪くない。
僕は自分の専用機を見る。
最初は、
「妻が使っているもの」
だった。
今は、
「僕が毎日使うもの」
になっている。
たったそれだけのことなのに、
なんとなく不思議だ。
妻が言った。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「これからも使う?」
僕は少し考えて、
「うん」
と答えた。
「たぶん、ずっと」
妻は笑った。
「じゃあ、もう家族会議は終わりね」
「……家族会議って、これだけ?」
「そうよ」
僕は思わず笑った。
大げさだ。
本当に大げさだ。
でも。
こうやって、
くだらないことで笑えるのも、
悪くない。

僕は専用機を片付けた。
いつもの場所に戻す。
そして、ふと思った。
僕がテラヘルツブロワーを使い始めてから、
いろんなことがあった。
最初は疑って。
こっそり使って。
妻にバレて。
気に入って。
専用機を手に入れて。
いつの間にか、
毎日の習慣になっていた。
思えば、
ずいぶん遠くまで来たものだ。
僕はそんなことを考えながら、
妻を見る。
妻は何も言わない。
ただ、いつものように笑っている。
僕も笑った。
そして――
少しだけ、
寂しい気持ちになった。
こんなふうに、
妻とくだらない話をしながら、
テラヘルツブロワーを使う毎日。
当たり前だと思っていたけれど。
当たり前の毎日って、
実はけっこう大切なのかもしれない。
僕はそう思った。
……まあ。
だからといって、
しんみりしすぎるのも僕らしくない。
妻が言う。
「あなた、明日も使う?」
「うん」
「じゃあ、充電しておいてね」
「……はい」
結局、最後はこれである。
僕の専用機。
僕の大切な日課。
そして、
妻との小さな日常。
それはきっと、
これからも続いていく。
さて。
ここまで来たら、
僕自身も少し振り返ってみたい。
最初はどうだったのか。
なぜ使い始めたのか。
そして、
どうしてこんなに気に入ってしまったのか。
……。
なんだか、
ちゃんと話しておきたくなった。
次回。
テラおじ日記⑬――最終回。
僕とテラヘルツブロワーの、
ちょっと変わった出会いから始まったこの日記も、
いよいよ最後。
最後くらいは、
僕の言葉で話してみようと思う。
……まあ。
妻には、
「また長くなるんじゃない?」
と言われているけれど。
そこは、
僕にも分からない。