2026/08/25 09:56


朝。

僕はいつものように、テラヘルツブロワーを手に取った。

最近では、もうすっかり日課になっている。



最初のころは、

「これ、本当に使うの?」

なんて半信半疑だった僕が、

今では、

「今日はどこにしようかな」

なんて考えている。

人間、変わるものである。


そして何より――

僕には今、自分専用の一台がある。


誰にも遠慮はいらない。

僕のもの。

僕だけのもの。

……まあ、妻が使いたいと言えば貸すけれど。


そんな平和な朝。

ふと、僕は思い出した。

――あの箱。

妻が隠していた、謎の箱。

昨日からずっと気になっている。


いや。

正確には、

「気にしないようにしていた」

のだ。


でも、気になる。

ものすごく気になる。

僕は妻に聞いた。


「ねえ、昨日の箱って何?」

すると妻は、

「ああ、あれ?」

と、なんでもないことのように言った。


「新しいものよ」

「……何の?」

「使ってみれば分かるわよ」


……。


まただ。

また「使ってみれば分かる」。

僕は警戒した。


「いや、だから何なの?」

「あなた、好きそうなもの」

「僕が?」

「うん」

妻がニコニコしている。

嫌な予感しかしない。


僕は箱を見る。

見た目は普通だ。

特別大きくもない。

でも、妻が僕にすすめるものは、

なぜか僕の生活に入り込んでくる。




そして気づけば、

毎日使っている。

テラヘルツブロワーだってそうだった。

だから僕は慎重になった。


「……これ以上、僕のもの増やしたくないんだけど」

妻が笑った。

「じゃあ、いらない?」


「…………」


「いらないなら片付けるけど」

「いや……」

僕は箱を見た。

そして妻を見る。


「……ちょっと見るだけなら」

「どうぞ」

箱が開く。

僕は中をのぞいた。


「…………」


「どう?」

「……へえ」

思っていたものと違った。

もっと怪しいものを想像していた。


でも、これは――

ちょっと面白そうだ。

「これ、どうやって使うの?」

「こうするの」


妻が説明してくれる。

僕は聞いている。

真剣に。

かなり真剣に。


そして説明が終わる。

「じゃあ、やってみる?」

「……うん」

やってみた。


最初は、

「ふーん」

だった。


ところが。

少しすると、

「あれ?」


僕はもう一度確認する。

妻を見る。


「ねえ」

「なに?」

「これ……もう一回やっていい?」


妻が笑った。

「ほら」

「何が?」

「気に入ったじゃない」

「いや、まだ分からないよ」

「じゃあ、もうやらない?」


「…………」


僕は黙った。

妻が笑う。


「やるんじゃない」

「……うん」

また負けた。

しかし。

ここで、僕はあることに気づいた。


僕は以前、

妻の使っているものを見て、

「なんでそんなもの使うんだろう」

と思っていた。

それが今では、

妻が何か新しいものを持ってくると、

「それ、何?」

と聞いている。


そして、

「ちょっと使ってみたい」

と思っている。


……。


もしかして。

僕は妻に、

完全に影響されているのではないだろうか。


そう考えていると、

妻が言った。


「ねえ、あなた」

「ん?」

「それ、気に入ったならあなたのところに置いておく?」

「……いいの?」

「いいわよ」

「本当に?」

「うん」

僕は少し嬉しくなった。


「じゃあ、ここに置こうかな」

すると妻が、

「でも、ちゃんと片付けてね」

と言った。


「……はい」


やっぱり、そこは言うのね。

僕は笑った。


そして、その日の夜。

僕は自分のテラヘルツブロワーと、新しく仲間入りしたものを並べた。


ふと見ると、

なんだか嬉しい。


自分のために使うものが、少しずつ増えている。

昔の僕なら、

「そんなに必要?」

と思っただろう。


でも今は違う。

毎日の中に、

ちょっとした楽しみが増える。

それだけで、意外と気分がいい。


妻が横から言った。

「よかったわね」

「うん」

「楽しそうじゃない」

「うん」

「じゃあ、次は――」

「え?」


僕は妻を見る。

妻はニッコリ笑っている。


「まだあるの?」

「あるわよ」


「…………」


僕は天井を見上げた。

我が家には、

まだ僕の知らないものがある。


妻は一体、

どれだけ隠し持っているのだろう。

そして僕は、

どこまでハマっていくのだろう。


……まあ。

いいか。

楽しいし。


僕はそう思いながら、

また自分の「専用機」を手に取った。

すると妻が言った。


「あなた」

「なに?」

「それ、私のよ」

「…………え?」


見ると、

僕が手にしていたのは、

妻のテラヘルツブロワーだった。

「…………」

妻が笑う。

「専用機、ちゃんと自分の使ってね」

「……はい」

僕はそっと元に戻した。


そして自分の専用機を手に取る。


……。


専用機があって、本当によかった。


次回予告(笑)

テラおじ日記⑫
「僕の専用機が、なぜか家族会議の議題になった。」

僕はただ、

静かに使いたいだけなのに――。

なぜ我が家では、

テラヘルツブロワーひとつで、

こんなに話が大きくなるのだろう。

……テラおじ、まだまだ続きます(笑)。