2026/08/21 10:06


「ねえ、あなた。これも試してみない?」

妻がそう言って差し出してきたものを見て、僕は黙った。

……。

なんだ、これ。

僕にはよく分からない。

でも、妻はニコニコしている。

この顔。

以前にも見たことがある。

そう。

僕がテラヘルツブロワーを使い始めるきっかけになった、あの顔だ。



「なに、それ?」

僕が聞くと、

「いいから。ちょっと使ってみて」

妻はそう言った。


いやいや。

ちょっと待ってほしい。

僕はもう学習している。

妻が「いいから使ってみて」と言うものには、何かがある。


そして、その「何か」が、

僕にとって良いものなのか。

それとも、

また新たな沼への入り口なのか。

そこが問題なのだ。


「これ、何に使うの?」

「まあまあ。使ってみれば分かるから」


……。


出た。

「使えば分かる」。

これは危険なセリフだ。


僕は警戒した。

しかし――

好奇心には勝てなかった。


「……ちょっとだけだよ」

そう言って、試してみる。


最初は、

「ふーん」

くらいだった。


ところが。

しばらくすると、

「あれ?」

なんとなく気になる。


もう少し。

さらに少し。


気づけば僕は、かなり真剣になっていた。

妻が横で笑っている。


「どう?」

「……うん」

「どうなの?」

「いや……」


僕は少し考えてから言った。

「これ、悪くない」

妻がニヤッとした。

「でしょ?」


……。


この「でしょ?」が、なんとも悔しい。

妻はこういうとき、絶対に得意げなのだ。


まるで、

「あなたがどうせ気に入ることなんて、最初から分かってましたけど?」

と言わんばかりである。


僕はもう一度使ってみた。

今度は少し長めに。


すると――

「……これ、もう一回やっていい?」

言ってしまった。


妻が吹き出した。


「ほらね」

「……何が?」

「最初は怪しんでたのに」

「いや、まだ怪しいと思ってるよ」

「じゃあ、やめる?」

「…………」


僕は黙った。

妻が笑う。


「やめないんじゃない」

「……うん」


完全に負けた。

こうして僕はまた一つ、

妻のすすめるものにハマってしまった。


しかし。

ここで問題がある。

僕には、すでに「専用機」がある。

そして今回のものまで気に入ってしまった。


つまり――

我が家には、

僕専用のものが、

また一つ増えた。


妻が言う。

「よかったね。あなた専用が増えて」


……。


そうなのだ。

僕は最初、

「自分専用のものがあるって最高だ!」

と思っていた。


でも、違う。

専用のものが増えるということは、

管理するものも増える。


置き場所も必要。

使ったら片付ける。


妻から、

「ちゃんと元に戻してね」

と言われる。


……。


なんだろう。

僕は自由を求めて専用機を手に入れたはずなのに。


気づけば、

家の中で自分の担当エリアが増えている。



しかも妻は楽しそうだ。

「ねえ、次はこれもいいかも」

「…………」


僕は恐る恐る妻を見る。


「次?」

「うん」

「まだあるの?」

「あるわよ」


……。


僕は思った。

妻はもしかすると、

僕を健康にしたいのではない。

僕を、

いろんなものにハマらせたいのではないか。


そう考えると、少し怖い。


でも。

妻がすすめてくるものには、

どういうわけか、

「ちょっと試してみたい」

と思わせる何かがある。


そして僕は今日も、

「一回だけだからね」

と言いながら試している。


……一回だけだったためしはない。


妻はそんな僕を見ながら、

「素直になればいいのに」

と笑う。


僕は答える。

「素直じゃない。慎重なんだ」

「はいはい」


……。


この「はいはい」が一番腹立つ。

でも。

たぶん僕は、

こうやって妻にすすめられながら、

少しずつ新しいものを知っていくのだろう。


そして――

また何かにハマる。

そんな気がする。


いや。

もう分かっている。

次も、きっとハマる。


なぜなら。

妻がさっきから、

僕の知らない箱を一つ、

後ろに隠しているからだ。


……。


あれは何だ。

僕は見なかったことにした。


でも。

たぶん、次回あたり、

その箱が僕の目の前に登場する。


そして妻は、きっと言う。

「ねえ、あなた。これも試してみない?」


……。


僕の「ちょっとだけ」は、

今日も終わらない。


次回予告(笑)

テラおじ日記⑪
「妻が隠していた箱。開けたら、まさかの展開に。」


僕はまだ知らない。

その箱が、

我が家の新たな習慣を生み出すことを――。