2026/08/19 10:24
朝。
僕はいつものように、妻にバレないように、こっそりテラヘルツブロワーを手に取った。
……いや。
正確に言うと、最近はもう「こっそり」ではない。
妻は、僕が使っていることを知っている。
むしろ、
「そんなに気に入ったなら使えば?」
と言ってくれている。
ありがたい。
本当にありがたい。
でも――
妻には妻の愛用品がある。
つまり、僕が使いたいときに限って、
「ちょっと貸して」
「今使ってる」
「あとでね」
という、あの微妙なやり取りが発生するのである。
僕は思った。
僕にも、僕専用の一台があればいい。
そんな願いが、ついに叶った。
ある日、我が家に荷物が届いた。
妻が箱を開ける。
「ほら。あなたのよ」
……。
僕は思わず、箱を二度見した。
僕専用。
正真正銘、僕専用。
誰にも遠慮する必要がない。
妻に、
「ちょっと貸して」
と言われることもない。
好きなときに使える。
好きな場所で使える。
好きなだけ――
……いや、「好きなだけ」は妻に怒られるか。
でも、とにかく。
自由だ。
僕は心の中で小さくガッツポーズをした。
これで僕のテラヘルツライフは、さらなる高みへ――。
そう思った。
その日の夜。
僕はさっそく自分のテラヘルツブロワーを手にした。
「ふふ……」
誰にも邪魔されない。
妻の顔色をうかがう必要もない。
これはいい。
実にいい。
僕が満足そうに使っていると、妻がこちらを見た。
そして一言。
「それ、使い終わったらちゃんと片付けてね」
「……うん」
……まあ、それくらいはいい。
僕は大人だ。
片付けくらい、する。
そして数日後。
僕の「専用機」は、すっかり我が家の定位置に落ち着いた。
朝も使う。
夜も使う。
ちょっと疲れたときにも使う。
妻のものを借りる必要がない。
これは快適だ。
僕は完全に調子に乗っていた。
ところが――
ある日のこと。
妻が僕の「専用機」を見ながら言った。
「あなた、それ毎日使ってるわね」
「うん」
「気に入った?」
「うん」
「じゃあ……」
妻がニコッと笑った。
嫌な予感がした。
「もっと使いやすいように、置き場所変えようか」
「……え?」
翌日。
僕の専用機は、
妻が決めた場所に、きれいに収納されていた。
しかも、僕が勝手に出すと、
「そこじゃないでしょ」
と、すぐに直される。
……。
おかしい。
僕は専用機を手に入れたはずだ。
なのに。
なぜだろう。
なぜか僕の自由が、少しずつ減っている。

そして、さらに数日後。
妻が言った。
「あなたの、それ私も使っていい?」
「…………え?」
僕は固まった。
妻は続ける。
「だって、あなた専用なんでしょ?」
……そうだった。
「僕専用」という言葉は、
「僕だけが使える」
という意味ではなかった。
「僕の責任で管理するもの」
だったらしい。
妻は笑っている。
僕も笑う。
……笑うしかない。
こうして僕は、念願の「自分専用」を手に入れた。
ただし――
我が家では、
専用機を持った者が、一番自由とは限らない。
ということを学んだ。
テラヘルツブロワーひとつで、夫婦の力関係まで見えてくる。
恐るべし。
そして僕は今日も、妻の決めた場所から専用機を取り出している。
「……僕専用なんだけどなあ」
そうつぶやくと、
後ろから妻の声。
「聞こえてるわよ」
「……はい」
夫婦円満の秘訣は、
言いたいことを言わないこと。
……たぶん。
いや、違うな。
言いたいことは言う。でも最後は妻に従う。
これが我が家の平和なのかもしれない。
さて。
そんな平和な日々を送っていた僕に、
妻がまた、何やら新しいものを見せてきた。
「ねえ、あなた。これも試してみない?」
……。
嫌な予感しかしない。
次回、
テラおじ日記⑩
「妻がすすめてきたものが、またしても怪しい。」
僕の平穏な毎日は、まだまだ続きそうにない。